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とびきり屋見立て帖「うつろ花」より 夕去りの茶事

 

先日ご紹介した、山本兼一さんの「とびきり屋見立て帖」シリーズ。


参考記事→道具を知るとお茶はもっと楽しい!「とびきり屋見立て帖」

 

道具屋の若夫婦、真之介とゆずの度胸と目利きが見どころの、江戸末期の京都を舞台にした小説です。

 

 

目まぐるしく変わる幕末の情勢の中、数々の問題を乗り越えていく2人からも目が離せないのですが、作中に出てくる道具のそれぞれが素晴らしい。
現存するものや各地で保存されているものも多くあります。

この話に出てくる茶道具は、もしかしたらあの美術館にあるあれかも…と思うだけでなんだかワクワクしてしまいます^^

 

 

シリーズ3作目となる「赤絵そうめん」の中の「うつろ花」という章に、初秋のお茶事のことが書かれています。

 

 

 

銅屋(あかがねや)吉左衛門からの頼みで、吉左衛門が何年も家元の若宗匠に貸したままになっている茶碗を返してもらうために家元に向かった真之介。
ところが、この茶碗はとても気に入っていて別れ難いので、どうしてもというなら最後にゆずにこの茶碗でお茶を点ててほしい。
という無理難題を若宗匠から突きつけられてしまいます。

 

真之介とゆずは、すっきりと茶碗を返してもらうために策を練りますが、その時の茶事の様子がとても素敵なのです。

 

 

事の発端となる茶碗は、三島手の外花(そとはな)の茶碗。


(彫三島茶碗  銘「木村」:東京国立博物館蔵)

 

三島は、土を形成してからヘラで模様を彫り、そこに白い化粧土を象嵌して作られます。
作中の彫三島は、まさにこの「木村」のことなのではないかと個人的には思っています。

 

 

さて、今回はこのお話に出てくる茶事の様子を勝手にイメージ化してみたいと思います。

 

(ここから先は、作中の細かい描写を参考にしていますので、まだ読んでいない方はご注意ください。読んでからの方が断然楽しんでいただけると思います。)

 

 

まず茶事の場所は、家元の屋敷内の小間。

 

場所はいろいろと思いを巡らせましたが、作中に出てくる家元屋敷の門構えは裏千家家元がモデルかと思います。

 

檜皮葺の兜門

 

となると茶室は「今日庵」と言いたいところですが、一畳台目の茶室ではいろいろと無理がありそうです。

 

もうひとつの小間の茶室は「又隠(ゆういん)」。

聚楽屋敷の四畳半茶室を写したものと伝えられています。

 

裏千家家元には枝折り戸はないので、あくまでもイメージですが。笑

 

 

夕去りの茶事

 

さて、今回の夕去りの茶事のテーマは「花尽くし」。
ゆずが考えた茶懐石では、普通はしないことですが、器の所々に花があしらわれます。

秋の花とともに初秋の茶事を楽しみましょう。
(*写真は色々なところからお借りして加工・修正を加えています。)

 

 

まず席入りした時の掛物は、「清風拂明月(せいふうめいげつをはらう)」。

これは「清風明月を払い、明月清風を払う」という対句の前句です。

 

「清風拂明月、明月拂清風」
清風が明月を払い清め、また明月もその光で清風を払い清める。
どちらかが上でも下でもなく、一体となってその場をつくる。
それでいて後には何も残さない、という意味です。

 

「うつろ花」の中でゆずは、若宗匠にさっぱりとした気持ちで外花の茶碗とお別れしてほしいという気持ちを込めてこの句を掛けています。

 

作中では炭手前を省略しているようでしたので、床に虫籠香合を飾ってみました。

 

 

茶懐石の初めの折敷には、女郎花(オミナエシ)があしらわれます。
向付はずいきと枝豆の胡麻和えです。

 

この夕去りの茶事は、向付に生魚を使わず茶懐石も軽めにして、続きお薄でしめています。
夏の朝茶事と同じ流れです。

 

お椀は鮑の葛仕立て。

 

 

焼き物は落ち鮎。鮎は初夏〜秋までが旬の川魚です。鮎を食べ慣れて飽きているだろう若宗匠のために、ゆずは油で2度揚げて頭から丸ごといただけるように調理しました。

傍らには姫薊(アザミ)を。

 

八寸は、このこと堀川牛蒡です。
木地の盆に杜鵑草(ほととぎす)を添えて。

 

作中にはありませんが、この後は湯斗と香の物です。

 

 

そして、主菓子は「こぼれ萩」。

薄緑のきんとんで、中は白あん。美味しそうです。

 

 

中立ちの後の濃茶席でゆずは、床の間に信楽の耳付き花入に斑入りのススキだけを飾ります。

 

どうして花がないのかと言う若宗匠に出された濃茶茶碗は、御本茶碗。


銘は「藤袴」。

赤く散った釉薬の斑紋を花弁に見立てた茶碗です。
「茶碗を花にしたか」と若宗匠も満足の様子。

 

そして続きお薄へ。

若宗匠が1番楽しみにしていた、外花の茶碗でのお薄です。

が。。。

 

普段の行いは良くも悪くも自分に返ってくるのだなあ、と思わせるまとめ方です。それでも水屋に花を飾り軸をかけて、最後までもてなしの心を忘れないゆずはさすがです。

 

 

さいごに

この話を読んで、文章だけでなく視覚化したらどんな風だろう、と思いイメージを作ってみました。

 

知識も経験もまだまだ浅いので恐縮ですが、お茶をされている方にはもちろん、茶事を経験したことのない方にも楽しんでもらえたら嬉しいです。

 

山本兼一さんの名著「利休にたずねよ」のお話も、そのうちやってみたいと思います。