10月は名残の月。残花と中置の茶席を惜しみ、楽しむ。
あっという間に暑い夏も過ぎ、秋の風を感じる季節になりました。
2020年は10月1日が中秋の名月でしたが、ご覧になりましたか?
関東は天気が心配されましたが、大きな月を見ることができました。
(もちろんお団子も食べました!)
茶の湯の世界では、10月は名残の月と言われます。
初夏に収穫した新茶を茶壺に入れて夏の間寝かせるのですが、その茶壺の口を開くのが11月。
つまり10月は前年のお茶をいただく1番最後の月、ということになります。
11月は言わば茶の湯の正月。
茶壷の口を開けて新しいお茶をいただくので口切りとも呼ばれ、茶会や茶事が催されます。お湯を沸かす釜をかけるのも、風炉から炉にかわります。
10月は、来たる11月の炉開きに向けて詫びた風情を楽しむ、これもまた特別な月なのです。
10月ならではのお点前、中置
表千家には中置(なかおき)という、10月にしかしないお点前があります。
上の写真はどちらも茶道口を入ったところのアングルから撮った写真ですが、どちらの写真も向かって右側が客座になります。風炉はお客様から遠い位置に、炉はお客様の近くに置かれているのがわかるでしょうか。
夏の暑い時期には火をお客様から遠ざけて、寒い時期には火の近くで温かく過ごしていただくためです。
もっと言うと盛夏の時期は小さめの風炉、初夏と初秋は大きめの風炉を使うそうです。
では涼しくなり始めたこの時期、風炉をどこに置くかというと、、、
(表千家HPより)
「畳の真ん中」に置きます。
夏の頃より、少しでも火をお客様に近づける、という心遣いが表れています。
でもこれだと水指を置くスペースがないので、この時期だけ「細水指」を使います。置く場所も、本来風炉の時期は客座寄りに水指を置きますが、中置だけは逆の勝手付きに置きます。
ここにも、水指は口の狭いものを使い客座から遠ざけて、中の水がお客様に見えない(=涼しさを感じさせない)ようにするという意味もあります。
名残りの月は侘びた風情を楽しむということで、こんな感じの地味な(笑)土物の細水指が好まれることが多いようです。
…かと思うと、こんな可愛い柄の細水指もあります。
わたしの先生もこのオランダ写しの莨葉(葉タバコ)模様の細水指をお持ちですが、こんな風に桑小卓と合わせたりもできるんですね。
桑小卓は裏千家の小棚という印象があるかもしれませんが、表千家でももちろん使います。でも細水指と合わせたことはありませんでした。
中置以外の時期も使えるなら、細水指の可能性が広がるなあ。。。と思っていたら、こんなすごい細水指も発見しました。笑
これは茶道具としてじゃないのかしら。
すごく素敵なんだけど、細水指は本来涼しげに見せないためのものだしなあ。さっきの桑小卓に合わせるなら夏らしくていいけれど、ちょっと華やかすぎるかしら。高さのあるところにこの水指を置くのも怖いし、重たいだろうなあ。
ルールにとらわれずにこういうものをさらりと使えるように、いずれはなりたいものです。
中置のお点前は年に数回しかお稽古しないうえに、柄杓の柄が自分の正面に来るので茶筅通しもやりにくいし、お茶も点てづらいんですけど、でも、中置の時期になると、ああ、もうすぐ炉開きかあ。。。なんてしみじみしてしまいます。
残花
侘びた風情を大切にするこの時節、お道具も簡素なものや飾り気のないものを使うことが多いです。
・・・ですが、床の間は思いのほか賑やかです。
普段は、お花はあまりたくさん花入れに入れることはなく、「花は野にあるように」というように、1〜2種類をすっきりと生けることが多いのですが、お花も少なくなってくるこの季節だけは、写真のように散り残った花をたくさん生けます。
これを「残花(ざんか)」と言います。
秋は春や夏のような勢いはないけれど、ほっとする佇まいのお花や植物が目につきます。秋の七草も素敵ですよね。
春の七草は食べられるものですが、秋の七草はその美しさを楽しむものと言われています。
奈良時代末期につくられた歌集「万葉集」におさめられている山上憶良(やまのうえのおくら)の短歌が由来とされています。
秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花
萩の花 尾花 葛花 なでしこの花 をみなへし また藤袴 朝貌(あさがお)の花
「あさがおのはな」は、色々な説があるようですが、朝顔ではなく桔梗(ききょう)というのが定説になっています。でも10月に入った今も庭先や路地に朝顔を見つけることが多く、やっぱり朝顔も秋の花、「秋の鏡草」なんだなあ、なんて感心しています。笑
参考→鏡草(かがみぐさ)
名残りと言ってもただ惜しむだけでなく、その時も楽しむ。
お茶のその心構えが、なんとも気持ちいいなあ、と思います。