日本のお茶,  食文化

猛暑を乗り切る!夏の飲みもの〜江戸時代編

 

 

(アイキャッチ画像:渓斎英泉「十二ケ月の内 六月 門ト涼」国立国会図書館蔵
夏の夜には江戸市中にたくさんの麦湯店が出て、夜遅くまで多くの人で賑わいました。麦湯店には他にも桜湯、くず湯、あられ湯などもあり、価格も安かったそうです。また、給仕をする若い娘も「麦湯の女」と呼ばれ、江戸の夏の夜の景物でした)

 

 

 

毎年、猛暑酷暑と言われていますが、今年も例外じゃない暑さが続いています。
暦の上ではもう秋、といえども今年の残暑もなかなか過酷です。


前回の記事では冷茶をお勧めしました。
暑い日に熱いお茶をいただくのももちろんいいのですが、暑いときはやっぱり冷たいものが飲みたくなりますよね。
「体にいいから…」ではなく「飲みたい!」と思うものを飲むのが、結局いちばんいいんじゃないかとは思うのですが、冷たい物のガブ飲みには要注意です。

冷茶、かなりお勧めですが、もちろん他にもあります、先人の知恵が。
昔は今ほど気温は高くなかったかもしれませんが、現代のように冷房などはありませんでした。

 

暑い時期にはどんなものが飲まれていたのでしょうか。

時代を遡って紹介してみたいと思います。

 

 

甘酒は夏の季語

 

まずは甘酒。
数年前からブームが起きて、今は普通にスーパーでも売られるようになりました。
甘酒というと、冬のイメージの方もいるかもしれませんが、実は夏のもの。
と聞いたことがある方も多いのでは?
でもでも、実は甘酒が夏に売られるようになったのは江戸中〜後期になってから。
小林一茶や与謝野蕪村が一夜酒(甘酒)を俳句に詠んだのも江戸後期です。
それ以前は、寒い冬の夜に売られていたそうですよ。

ちなみに暑い夏に飲まれるようになってからも、冷やしではなくてあつあつで売られていたそうです。

 

国立国会図書館蔵「守貞漫稿」より)

 

ご存知の方も多いと思いますが、甘酒には2種類あります。

●酒粕甘酒
水に酒粕と砂糖を入れて、温めながら溶かしたもの。
酒粕から作られているのでアルコール入り。

●米麹の甘酒
粥状にした米に米麹を合わせて55〜60度で保温したもの。
砂糖は入っていません。お米のでんぷんを、麹菌が持つアミラーゼで分解して糖にしています。映画「君の名は。」に出てきた口噛み酒と、方法は違いますが作り方の原理は同じです。
(口噛み酒は、唾液に含まれるアミラーゼででんぷんを分解します)
ノンアルコールです。

 

酒粕甘酒は昔祖母がよく作ってくれましたが、これ、けっこうな砂糖の量なんですよね。お正月に地元の神社でも配っていましたが、小学生の頃は甘酒はもらえず、代わりにミカンをもらってました。
懐かしいなあ。
麹の甘酒は今はどこでも買えますが、わたしは飲みたくなると手作りしています。(市販のものは火入れしているものが多いし、けっして安くはないので)
作り方は、お粥に米麹を混ぜて保温鍋に入れておくだけ。麹の量も適当で(パッケージなどに書いてある量より少なくても)大丈夫ですが、麹が多い方が失敗しにくいし甘くなります。出来上がったらミキサーでピューレ状にして瓶に入れ替えて冷蔵庫へ。火入れはしないので日が経つごとに少しずつ甘さが増していきます。夏は毎朝ぐい呑み1杯、豆乳と1:1で割って飲みます。これが美味しいんだな〜。

 

外で飲むなら、神田明神近くの天野屋さんの「明神甘酒」は有名ですね。店舗の地下にある土室で作り出される糀を使って作られています。店舗では夏の時期限定のかき氷「氷甘酒」をいただくことができます。
けっこう前にいただいたことがありますが、美味しかったなあ。店内に冷房が効いていないので、かき氷が余計に染みました。

 



 

 

ひやしあめ

 

懐かしいと言えばひやしあめなんかも懐かしい。
(といっても、子どもの頃に飲んでいたわけではないですが、学生時代に駄菓子屋さんで売っていたのを飲んでいました。)

江戸時代には、麦芽水飴や米飴をお湯で溶いて生姜を加えた「あめゆ」が、甘酒と並んで夏バテに効く飲み物として売られていたといいます。
この「あめゆ」を冷たくしたのがひやしあめ。
個人的にはひやしあめは関西、甘酒は関東のイメージです。


調べてみたら今はレモン果汁が入っているものもあるみたいですよ。

 

ひやしあめも水だけでなく、炭酸で割ったらジンジャーエールになるし、濃いめに作ってかき氷のシロップにしても美味しそう!

 

枇杷葉湯(びわようとう)

 

枇杷の葉を乾燥させて、甘草や肉桂など数種類の漢方と一緒に煎じたお茶を「枇杷葉湯」と言います。
枇杷葉湯は暑気あたりや食中毒、咳を鎮めるなどの作用があり、江戸時代では夏の盛りから晩夏にかけてよく売られていたそうです。

清水晴風「世渡風俗圖會」より烏丸枇杷葉湯賣 国立国会図書館蔵

これもあつあつに砂糖を入れて売られました。

そういえば昔、薬膳料理をいただいた時に枇杷葉湯を飲んだことがありますが、サフランが入ったザラメを入れて飲んだ記憶があります。(なぜサフランだったのかは謎。。。薬膳料理だから、、中国ではそうして飲むとか?)


枇杷の葉だけのお茶も自然食品店などで売られています。枇杷だけだとだいぶ飲みやすいですよ。

 

 

さいごに

 

江戸時代にはいろんな行商人が街に出ていろんなものを売っていましたが、季節限定のものも多かったんですね。

他にも、夏には「冷や水売り」という行商人もいて、深い井戸から水を汲んで、その水に砂糖と白玉を入れて売っていたそうです。

清水晴風「世渡風俗圖會」より心太賣、志ら玉水賣 国立国会図書館蔵

心太(ところてん)も、飲み物ではないけれど、暑気払いにはもってこいですね。関西では黒蜜や白蜜で、関東は辛子醤油でさっぱりといただくことが多かったようです。

 

それにしてもこうして並べてみると、甘い飲み物の多いこと。

 

実は砂糖には体を冷やす作用があるといわれています。
昔の人も知っていたんでしょうか。科学的根拠がなくても体感していたのかなあ。

海外に行くと、南国のお菓子って異常に甘いなあといつも思うんですが、きっと暑い国で暮らす人にとっては糖分って必須栄養素なんだろうな。
そして水道水が飲めない地域に行くと氷も避けるので、必然的に常温やホットの飲み物が多くなるのですが、まさに江戸時代はそうだったんですね。

確かに冷たいものを食べたり飲んだりして直に内臓を冷やすより、熱い麦湯をぐいっと飲んで、どっと汗をかいて気化熱で体を冷やす方が健康的かもしれません。

 

夏のピークが過ぎ、これから秋に向けて気温も徐々に下がって空気も乾燥していきます。
個人的には秋に変わる前の「秋土用」が鬼門なので、この時期の養生はすごく大事。
養生法についてはまた別記事にしたいと思います。