歴注といえば中段、と言われるほど大切だった十二直。

 

 

(アイキャッチ画像:三代歌川豊国「意勢固世身 見立十二直」より
〈開 ひらく〉)

 

 

旧暦の暦は日付だけでなく、たくさんの歴注が書かれていました。

 

その中で特に当たるとして重視されていたのが十二直(じゅうにちょく)。
暦の真ん中あたりの欄に記載されていることが多いため、「中段」「中段十二直」とも呼ばれます。
十二直とは、北斗七星の柄杓の柄の部分(斗柄・とへい)が季節によって指し示す方位を十二支に割り当てたものです。

 

(北斗七星は北極星を中心に回ります。)

 

冬至の頃、日没後に北斗七星の柄杓の先端が真北(子)を指すので、冬至の日が含まれる陰暦11月を「建子の月(子のおざす月)」としました。
「おざす(建す)」とは、北斗七星の柄の先が十二支のいずれかの方向を指す、という意味です。陰暦の12月には丑(うし)の方向を、1月には寅 (とら) の方向、2月には卯 (う) の方向を、というように、順に1年の間に十二支の方向を指します。

もともとは北斗七星の柄杓の柄が指し示す方位で、人々は季節や月日を把握していました。
やがてそれが方位に割り当てられた十二支と結びつけられて、さらに日々の吉凶を表すようになったと言います。

 

 


十二直の吉凶

 

十二直 吉凶・解説
 建(たつ)

「万物が建つ」物事を始めるのによい日。
吉:神仏祭祀、棟上げ、新事業の開始、婚礼、旅行、お祝い事
凶:土を動かす、船に乗る、蔵開き

 除(のぞく)

「災いを除く」病気の治療や祭祀によい日。
吉:種まき、医者にかかり始める、井戸掘り、すす払い
凶:婚礼、土を動かすこと

 満(みつ)

「万物満ち溢れる」十二直のなかでも大吉の日。
吉:神仏祭祀、移転、婚礼、旅行、お祝い事
凶:土を動かす、鍼灸

 平(たいら)

「万事平らかに」物事の平等円満をもたらす吉日。
吉:地固め、柱立て、移転、婚礼、祝い事
凶:穴掘り、溝堀り

 定(さだん)

「善悪が定まる」物事を決めるのによい日。
吉:建築、柱立て、棟上げ、移転、婚礼、開業、種まき
凶:旅行、樹木の植え替え、訴訟を起こすこと

 執(とる)

「物事を執り行う」のにふさわしい日。
吉:神仏祭祀、婚礼、種まき、井戸掘り、造作
凶:金銭授受、財産整理

 破(やぶる)

「この日戦えば必ず傷つく」祝い事や契約は特にNG。
吉:訴訟、交渉事
凶:神仏祭祀、移転、旅行、婚礼

 危(あやう)

「万事に危惧すべし」自重し控えめに過ごす日。
吉:神仏祭祀、結婚、種まき、酒造り
凶:旅行、登山

 成(なる)

「物事が成就する」何かを始めるのにいよい日。
吉:見合い、結納、婚礼、新規事業開始、開店、種まき、金銭の借り入れ、移転
凶:訴訟、交渉事

 納(おさん)

「万物を取り納める」のに適した日。
別名「天倉(てんそう)」とも言う。
吉:作物の取り入れ、五穀収穫、物品の買い付けや買い入れ
凶:鍼灸、婚礼、見合い(婚礼や見合いや吉とする見方もあり)

 開(ひらく)

「物事が開く、道が開かれる」
吉:建築、地鎮祭、棟上げ、移転、婚礼、開店、井戸掘り
凶:不浄のことに適さず(葬式などは凶)

 閉(とづ)

「物事が閉じる」開(ひらく)と反対の日。
吉:金銭収納、墓作り、葬式、池を埋める、穴を塞ぐ
凶:柱立て、地鎮祭、棟上げ、開店、婚礼

 

現代では、吉凶が本来の意味とは変わっているものもあります。
また単純に、

建・満・平は吉日
除・定・執・成・納・開は小吉
破・危・閉は凶日

という風に考えることもあるようです。

 

 

 

実際の暦で見てみよう

 

(クリックすると拡大します。)

 

上の図の赤で示してある部分が「中段十二直」です。

 

十二直は「建子の月」である11月の、大寒の後の最初の子の日を「建」として、この日から上の表の順番通りに毎日に当てはめていきます。

上の暦でも、一日の「おさん」から始まって「ひらく」「とつ(とづ)」「たつ」というように、一日ごとに変わっています。

 

ちなみに十日と十一日に「やふる(やぶる)」が連続していますが、これは二十四節気の節気の日(大寒、小寒、立春、啓蟄、清明、立夏、芒種、小暑、立秋、白露、寒露、立冬)は前日の十二直を繰り返す決まりがあるからです。
節分の次の日は立春なので、「やふる」が続いているのですね。

 

 

 

さいごに

 

中段ひとつとっても覚えることが多すぎて、順番もただ繰り返しているわけではありませんでした。
当時の人たちが暦を手放せなかったのがよくわかります。

現代では自然とともに暮らすことが昔より難しくなったこと、あとは暦がグレゴリオ暦(太陽暦)に改暦されたことが、暦が必要不可欠ではなくなってしまった大きな原因だと思います。

 

それでも、太古の昔から夜空には月があって、旧暦の暦は月とともにありました。
最近は昼間は暑くても空が高く澄んできて、虫の声が秋を感じますね。

 

季節の移ろいをふとした時に感じられる、これって日本ならではの贅沢なのかもしれません。