懐石料理、会席料理、本膳料理。何がどう違う?
和食は日本の伝統的な料理として、日本だけでなく世界にも知れ渡っています。目でも楽しめて、味付けも繊細なものが多く、調理法も蒸したり煮たりとあっさり目であることが、人気の理由でしょうか。
伝統的な日本料理と言えば、懐石料理、会席料理、本膳料理などが挙げられますが、これって日本人でも意外とよくわからないですよね。
懐石と会席なんて漢字が違うだけじゃないの?本膳料理って?現代で食べられるお店あるの?って感じです。
この懐石料理と会席料理、料亭の仲居さんでも違いをちゃんと説明できる人は多くないんじゃないかと思います。
現代で一番馴染みがある会席料理
和食や日本料理と言えば多くの人が想像するのが、こんなイメージだと思います。
↓
(京都調理師専門学校より)
これは会席料理。
旅館の夕食や和風レストランのイメージといえばわかりやすいかな。
会席料理の歴史は意外と浅く、江戸時代と言われています。
会席というのは俳句や連歌の席のことを指し、会席料理というのはその席(俳句や連歌の会の後)で出される料理のことです。
会席料理は、本膳料理を簡略化したものが元になっていて、上の写真のように一度に出されるスタイルと、一品ずつコース仕立てで出されるスタイルがあります。
(料亭などではこのコース仕立ての料理スタイルが多いですね。漢字も「懐石」の字を使っているところも多くありますが、その解釈は後ほど。。)
本膳料理は、儀式的要素が強いもてなし料理
では本膳料理とは、どんな料理でしょうか?
本膳料理は室町時代、武家社会の時代に武家が客人をもてなす際に用いた料理のことです。平安時代の貴族のもてなし料理である大饗料理(だいきょうりょうり)から発展しました。
儀式的な意味合いを強く持っていて、正式には「式三献(しきさんこん)」という酒の席から始まり、宴席が3日続くこともあったそうです。
イメージとしては、戦国武将が宴席で食べる料理。
脚付きの膳に、少量ずつ盛り付けた料理が1人分ずつ乗って出されます。
(文献によっては朱塗りの脚付きの膳としているものもあります)
(https://jtcl.co.jp/dictionary/honzen-ryouri/)
本膳料理はもてなす側ももてなされる側にも厳しい作法があり、明治時代以降に廃れてしまい、現代では冠婚葬祭の儀式料理などにその名残を残すのみです。
でも実は、本膳料理から生まれた言葉や作法はたくさんあります。
例えばご飯は左に、汁椀は右に、というのも本膳料理から始まりましたし、ひとつのお菜をずっと食べ続けるのも、本膳料理ではマナー違反でした。
皿から皿へと箸を移動させる「移り箸」もタブー。
膳の数はその時々で変わりますが最大五の膳まで出され、五の膳に乗っている「引き物」は手をつけずに持ち帰るためのもので、現代の結婚式の「引き出物」はここから来ています。
また、本膳料理の一の膳と二の膳を合わせたものが一汁三菜です。現代でも馴染みのある言葉ですよね。戦国時代の武士は家で食事をする時は一汁二菜(一の膳のみ)、または一汁三菜のスタイルが基本だったようです。
茶懐石のルーツは禅僧の精進料理
懐石料理といえば、和食の世界では茶席でお抹茶をいただく前に出される茶懐石のことを指します。
ところが、ここまで散々「懐石料理」と書いてきましたが、実際に茶の湯の席では「懐石料理」とは呼びません。単に「懐石」、または会席料理と区別するために「茶懐石」と呼びます。
さて、その茶懐石、実は精進料理から派生したものなのです。
茶懐石は、千利休が茶の湯を確立していく中でその基礎ができたと言われます。
茶の湯と縁の深かった禅宗の僧たちが食べていた精進料理の精神を千利休が更に深め追求して、狭い茶室でもいただけるように茶懐石を作り出したと言われています。
当時はもちろん「茶懐石」という言葉自体はなく、「献立」とか「仕立て」という言葉が使われていたようです。(これも料理自体だけでなく、その集会とか会合そのものを含む意味合いもあったようです)
「かいせき」とも呼ばれていましたが、「懐石」ではなく「会席」の字が当てられていました。(これもややこしいですよね。。)
ではなぜ「懐石」という漢字が使われるようになったのか?
これも有名な話があります。
精進料理が広まったのは室町時代、1200年代。禅僧の食事は1日に1度であったため、彼らの生活は修行の厳しさに加えて寒さと空腹との戦いでした。それを少しでも癒すために、温めた石を懐に入れていたといいいます。
そのため「懐石」といえば、もともとは禅僧のことを指していたそうです。
そこから、禅僧が自ら作って食べていた食事(精進料理)が懐石料理と呼ばれるようになりました。
精進料理は仏教とともに日本へ
精進料理とは、仏教の戒に基づき殺生や煩悩への刺激を避けることを主眼として調理された料理のこと。(Wikipediaより)
つまり、修行の邪魔になると考えられるものを極力廃した料理といえます。動物性のものや刺激の強い食材は使わない(煩悩を刺激するものは避ける)、美食はせずに粗食をし、季節のものをできるだけ取り入れ、自然に感謝する。それが精神修養につながると考えられていました。
精進料理は仏教の戒めを基としているので、日本だけでなく仏教が根付いている国でももちろんあります。
中国や韓国、台湾でも精進料理を出す料理屋はたくさんあります。
台湾では素食という看板をよく見かけましたが、これは菜食という意味で、台湾の素食はレベルが高いですよ。おすすめです!
日本でも現在では寺院や宿坊で“いわゆる本格的な精進料理”を一般の人もいただくことができますね。
さいごに:懐石料理と会席料理の違い
ここまで日本の伝統的な料理について紹介したものを、簡単に図にしてみました。
懐石料理といえば料理の分類的には茶懐石のことを指す、でも茶の湯では懐石料理とは言わない、と説明しましたが、
「では料亭などで懐石料理と書いてあるのは何なのか?」
ということになります。
これ、私も気になっていたのですが、今回調べていて疑問解消できました!
懐石料理は「喰い切り、つまり茶懐石のように一品ずつコース仕立てで提供される会席料理」のことを指します。
会席料理の基となる本膳料理は中国から伝わってきた食文化で、昔は一度に全部の食事を用意することで「俺はこんなにいろんな食材を手に入れられるんだ」と、自分の凄さとか権力を相手に見せることができました。
でも、茶懐石ができた頃には「温かいものは温かく、冷たいものは冷たく」していただくのが最上、という考えも出てきたのではないでしょうか。(もちろん狭い茶室で一度に出せなかったということもありますが)
酒の席なら気にならない冷めた料理も、狭い茶室で食事と向き合って食べると、寒い時に用意された温かい汁物など特に、滲みいるものがあっただろうなあ、と思います。シチュエーションごとに、料理もいろんな役割を果たしてきたということですね。
江戸時代初期にはオランダの影響を受け、さらに時代が下がって欧風文化が定着してくると、例えばフランス料理のフルコースのように、会席料理もコース仕立てが主流というか格上に扱われるようになっていったのではないかと思います。
それともちろん、茶懐石と同じ漢字を使うことで、茶の湯の精神性を匂わせる(と書くと聞こえが悪いですが、笑)意味ももちろんあったと思います。
会席料理と茶懐石は、目的が違う。
会席はお酒や料理を楽しむものなので、まず先付けから始まり、最後にご飯と汁、香の物が出てきます。
懐石(茶懐石)は、お茶を楽しむための準備の食事なので、全体的に量は軽く、ご飯と汁と向付が一番初めに出てきます。(お酒も出るけどあくまでも脇役。とは言え茶懐石にも亭主と客が酒を注ぎ合う「千鳥の盃」という作法があり、酔っ払いがふらふら歩く「千鳥足」はここからきています。笑)
(料亭で使われる)会席料理と懐石料理は、スタイルが違う。
会席料理は旅館の夕食のように、一度にすべての食事が出されます。
懐石料理と表記があれば、一品ずつコース仕立てで提供されます。
たまに、懐石料理の最後にお抹茶とお菓子で〆るお店もあったりして、これはまさに本膳料理と同じ。でも現代では料理の持ち帰りは難しいことも多いので、もったいないけどフルコースの後じゃ満腹で入らない!というケースもあります^^;
現在は接待やもてなしで料亭を使うことも多いです。中には大事なお客様だからその店で一番高いコースを注文するんだけど、お酒ばかり飲んで料理にはほとんど手をつけない、という方もいます。
先方には「最上の料理を用意するにふさわしい方です」という気持ちは伝わるでしょうけど、その料理は?
昔働いていた料亭は伊勢海老をその場で捌いて出したりしていたので、残されてしまうと本当に悲しかったです。
彼らの接待のためにその命を差し出したのに、、、というのは大げさでしょうか。
せめて美味しく残さず食べることが、伊勢海老の命を無駄にしないこと。
お客様にも、どうか楽しんで残さず食べてほしい、というのは料理界全員の思いではないでしょうか。
食事の本来の意味、生きるために食べる、という原点をいつでも忘れたくないと思います。